アンコール・ワットの第三回廊へは、東南角の尖塔門に続く木製の階段を上ります。入口の塔門破風に、聖霊獣のレリーフが見られました(左写真)。精霊獣とは、ガルーダ(聖鳥)、ナーガ(蛇・竜)、象、ハヌマーン(猿)、シンハ(獅子)など、古代インドの(ヒンドゥー教)神話や叙事詩(「ラーマヤーナ」「マハーバーラタ」など)にも登場するものです。塔門を入ると、第三回廊の内側に沐浴池が広がっていて、上ってきたばかりの観光客たちが、沐浴池の縁に腰をかけて一休みしていました(右写真)。
すでに紹介したアンコール・ワット平面図から、第二回廊と第三回廊の部分を切り取り、左写真として示しました(参照: http://blogs.yahoo.co.jp/soreikemami/folder/1238789.html?m=lc)。平面図に見るように、中央祠堂塔へ通じる回廊は十字に造られ、回廊には沐浴池へ下りる階段が両側に設置されていました。右写真は、第三回廊の一角から中央祠堂塔と沐浴池を写したものです。
1枚のフレームに沐浴池と屋根とが入らなかったので、上下に2枚の写真をつないで掲載しました。写真右側が中央祠堂塔、回廊でつながっている左側が、第三回廊の塔門です。第三回廊隅に建つ尖塔も見えています。写真の、沐浴池に下りる階段の上の破風は、その形をとどめていました。
撮影した場所により、中央祠堂が右側または左側に見えますが、4つの沐浴池は、全く同じ様式で造られています。わずかに、沐浴池に下りる階段上にある破風の破損状態が、4つの沐浴池の違いを見せていました。
観光客は、思い思いの場所で時間を過ごしていました。第三回廊に滞在できるのは1時間と決められているとのことですが、厳格ではないようです。写真左側、中央祠堂塔の傍らに制服姿の男性が座っていました。腰にトランシーバーのようなものをつけているので、観光客の人数など把握する係員なのでしょう。
沐浴池の真ん中に建つ中央祠堂塔です。右写真に、その一部を拡大しました。写真中央上から2体のデヴァター、右の方にガルーダ、右下隅にはアプサラが見えます。左寄りの下に彫られているのは、神話の一部を描いたレリーフのようです。
塔の上に避雷針が見えました。ベンジャミン・フランクリンが避雷針を発明したのは1750年、アンコール・ワットが建立された600年ほど後の事です。中央祠堂塔に、避雷針に代わるものがあったのでしょうか?この避雷針はもちろん後の世に付けられたものでしょうが。
中央祠堂塔への回廊です。右写真は、中央祠堂塔入口付近の壁に彫られたデヴァターです。
中央祠堂塔内には、ナーガの台座に坐る仏像が置かれていました。創建当時に祀られていたビシュヌ神像は、現在、西塔門で祀られているビシュヌ神の像であったと伝えられています。スーリヤヴァルマン2世は、中央祠堂に降った雨が、ビシュヌ神を祀る祠堂塔から流れ下ることによって聖水となり、その聖水を集めた池で沐浴することによって、神との一体化を望んだのでしょう。
中央祠堂塔の上部に、たくさんの蝙蝠が見えました。そして、下には無数の糞が落ちていました。
中央祠堂塔は、シェムリアップ市街地における最も高い建造物です。中央祠堂塔の高さ65mは、シェムリアップ市街地の建物規制の基準値とされています。その高く、光の差し込まない中央祠堂塔は、コウモリの格好の住処となっているらしく、その糞が石を溶かしてしまうことが、大きな問題になっているそうです。
写真/文 山本質素、中島とみ子